今回は、「残業ほぼゼロで10年連続増収」「産休・育休を取得した社員の職場復帰率はほぼ100%(1人だけご主人の海外転勤で復帰していないのみ)で社員の約半分がワーキングマザー」という、通販化粧品会社ランクアップ(中央区銀座、従業員42名、売上75億円。2015年9月期)の岩崎裕美子社長を取材させていただきました。
2013年には東京都のワークライフバランス、育児・介護休業制度充実部門で認定企業に選ばれ、女性も活躍し続ける企業に、誰もが活躍し続けられる仕組みのヒントを探りました。
◆ママハピ・谷平(以下、谷平):「誰もが長く活躍できる理想の会社」を目指すきっかけは何だったのでしょうか?
◆岩崎氏:実は以前、ベンチャーの広告代理店におり、寝ないで仕事をする超ブラック企業のバリバリ働く取締役営業本部長でした。甘い事を言う部下には「売り上げを上げてから言え」と終電まで働かせ、社員は疲れ果てて次々と退職していき、採用を繰り返すという職場。もちろん遅くまで働いているほうが頑張っていると私も社長も思っていました。
ところが長時間労働しないと居場所がない会社だったので、「仕事は楽しいけれど、将来結婚も出産もしたいから退職します」と言う有能な女性社員を引き留めることができませんでした。また、仕事ができるようになったら退職してしまうという繰り返しに自分も疲れ切っていたうえに、管理職も全員辞めてしまったことで、「この働き方を変えなくては会社に未来がない」と気づきました。
そして自分自身も35歳になり、積み上げたキャリアを捨てて結婚出産をすることに悩むようになりました。この当時の悩みが、長時間労働しないことへの挑戦に繋がるのです。
◆谷平:社員のほとんどが17時に帰宅して10年連続増収が実現している仕組みや制度が色々あるようですが、どんな取り組みから始めたのでしょうか?
<同社プレスリリース抜粋>
◆岩崎氏:まずは圧倒的に差別化された自分たちが欲しい製品。わかりやすい広告。親切で丁寧なサービス。この3つは根幹です。
「長時間労働したくない」と同僚だった日高と2人で始めた通販会社でしたが、最初は19時くらいまで残ることも多く、みんなの退社が17時になるまで6年はかかっています。
スタートアップ当初から、意外にもコストが下がり生産性が上がるので配送など様々なことを徹底定期にアウトソーシングし、自分たちでないとできない「考える仕事」に集中していきました。41歳の高齢出産で、残業しない会社にしたいという想いが強まり改革をしていきました。
今では成長支援や健康支援など様々な制度を導入していますが、子育て支援制度のなかでは、「ベビーシッター導入(利用料約2万円のうち1日につき300円のみ社員負担)」が喜ばれています。
◆谷平:設立8年目で人事制度構築を急いだと聞きましたがきっかけがあったんでしょうか?
◆岩崎氏:常に売上は上がっていましたが、社内が暗くなっていったんです。やりがいを感じていない。会社の不満を言ったり体調不良になる社員が増えました。
それは、私のワンマン経営が原因だったのです。せっかくやる気を出して提案してくれた部下の意見をつぶしてしまって、こうやれと指示してしまう。背景を説明せず決定事項だけおろす。
私がトイレに行こうとしたら、社員がトイレに行くのをやめる、というくらい社員と対立構造になってしまっていました。その後、私は、せっかく会社の業績は右肩上がりなのに社員のやる気を引き出せていないことに気づき、心から反省したのです。
そこで、定時に帰れるだけでは社員は幸せにならないんだ、みんなはやりがいを求めているんだ、と気づいて価値観をつくりました。
人材コンサル会社を頼り相談したら、いろんな方に評価制度を変えるように言われましたが、ある1社に「評価制度より価値観をはっきり決めて社員に発表しなさい」と言われたんです。かっこつけず本当に大切に思ってる価値観を伝えよう、と決めました。
◆谷平:発信されている「挑戦」「信頼」「人の役に立つ」のコアバリューの部分ですね。
◆岩崎氏:当時は公務員のように変化を嫌う安定風土でした。だから創業者である私と取締役の日高2人が大切にしたい「挑戦」という価値観を明確に伝え始めました。
社員から、どうせまた何言ってんだって言われるかなぁとか、辞めちゃう社員がいるかも、とか色々心配はしましたが、結果的に会社に残るなら挑戦が好きじゃないとねとか、挑戦する人を応援する側に回ろう、という動きが広がり誰も辞めずに風土が変わっていきました。」
ちょうど社員たちが育ってきていた時期でもあったかもしれませんが、同時に、とにかくお金のこと以外は信頼して任せ、権限委譲する体制に変えました。
信頼して任せてみると期待以上のものがあがってくる。自分にしかできないと思っていた勘違いに気づきました。
◆谷平:母親が何度でも子供を産み「やりがいのある仕事ができる会社」に必要なこととは何だと思いますか?
◆岩崎氏:男女ともに長時間労働のない社会ですね。みんながみんな、うちの会社のように17時に帰るのは無理だと思うので、例えば夫婦でワークシェアできる分担性が理想です。パパが火・木曜日は早く帰ってきてくれればママが週2日残業できる、とかそんなシェアができるのが夢ですね。
◆谷平:今までのやり方を捨てて時間外労働を減らすというのは企業や社員にとって大変な変化になりますが、アドバイスがあれば教えて下さい。
◆岩崎氏:対個人の観点では、できることから上司に働きかけるのもいいと思いますが、ワークライフバランスや女性活躍推進などを社内でプロジェクト化するのもおすすめです。1人の力は微力ですが、人を巻き込むことで実現可能性が広がります。社長もプロジェクトに巻き込むことが成功の秘訣です。
対経営者の目線でいうと、「人が辞めないで最低限の採用コストしかかからない」「人材に長くいてもらってスキルを高め、デキる人材が残る」というメリットは大きいです。
先にあるビジョン・目的が大切ですね。
◆谷平:最後に、子育て中の働くママや働きたいママさんへメッセージをお願いします。
◆岩崎氏:まず、正社員でいま働いている人は辞めないでほしいです。いったん辞めると積み上げたキャリアがリセットされて復帰は本当に難しい。会社に相談して勤め続けたい意思を伝えてみてください。
辞めてしまった方は、なるべく早く働いた方がいいと思います。ブランクは少しでも短い方がいい。お弁当屋でもスーパーでもなんでもいいんです。選ばなければ仕事はたくさんある。
レジ打ちや事務から社長になる人だっている。真面目に働いている人は年齢に関係なく人から引っ張られています。周りはあなたの働く姿勢を絶対にみている。保育園代の経済面と働き方に最初は悩むかもしれませんが、自分の将来を信じてまず一歩踏み出してみてほしいです。
周りを明るくするエネルギーのある岩崎社長に元気をいただきました。
株式会社ランクアップ 代表取締役 岩崎裕美子
昭和43年2月生まれ。15年勤務した広告代理店の取締役営業本部長を務め、自身が肌トラブルに悩まされたことをきっかけに(株)ランクアップ設立。マナラ化粧品を開発し、人気商品のホットクレンジングゲルは累計550万本を売り上げるなど女性たちから支持を得ている。