「ウーマンエンパワー賛同企業」事務局では、賛同企業様の施策の参考になればという想いで、様々な企業事例や専門家の取材記事を掲載しています。
今回は、船橋市ワーク・ライフバランス推進事業の働き方改革セミナーを取材してきました。
船橋市の松戸徹市長も、「人件費削減というとらえ方ではなく、社会の在り方や個人の生き方をどう管理職がマネジメントできるか、人材確保や社員1人1人の人生のため街全体で取り組んでいきたいテーマ」と挨拶。各社様にとって何かのヒントになれば幸いです。
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「働き方改革こそが中小企業にとって唯一の生き残り策~人口逆ピラミッド時代の経営手法~」
サイボウズ株式会社 社長室フェロー 野水克也氏
サイボウスは、以前は働きづくめで28%の離職率であった。今は約500名規模の企業だが、5,000人の応募があり、2,000人の面接をし、20名を厳選採用できる人気企業となった。離職率も3-4%に減ったうえで売り上げは大きく伸びている。
上場前の20人程度のサイボウズへ入社し、今でも現役でカメラマン副業中の野水氏によると、日本の人口構成は逆ピラミッド型となり、50代でも役職なしが普通になってくる、そして、要介護者は630万人から20年後には倍近くになると言われるなかで、個人がどう生きるか?経営側はどう存続するかが問われている。
(60~64歳 920万人、20~24歳 490万人、0~4歳 351万人/2035年予測 総務省)
働ける人は働けるようにしないと労働人口が足りない、そして、労働者は無理なく働けるようにしないと若手が採用できない。
サラリーマンの平均年収は90年代から20年で50万円減っており、共働きが当たり前に。教育費などを考慮し、夫婦フルタイムで年収700万円以上を目指す世帯が増えている。共働き世帯がそうではない世帯の倍いる、という時代になっていく見込みだ。
そんななか「みんな9:00に出社しましょう」というのはどれだけ大変なことか企業側がわかっていないという。
50代ワーカーが激増したのに給与が年功序列のまま。
共働きが普通なのに、全員9時出勤土日休み。
去年と同じ仕事をして全員の給与が上がったら理論的に会社は潰れる。
OECD加盟諸国34か国中、日本の労働生産性は22位。ギリシャと同じくらいである。
倍の時間を働いて何とかもっている、ということだ。それだけ働いても40~50代男性を中心に、日本は自殺死亡率がロシアの次に高い。
高度成長期は同じスキルと同じ行動特性を持った人を大量育成し、同一価値で競争させることが勝ちパターンであった。低賃金、高効率な国が勝つなかで日本は逆だ。
現状の日本の年功序列の働き方の仕組みは、一度離職をすると二度と元の水準に上がれないのも課題となっている。
だから求められているのは、「それぞれの個人がそのときの自分にあったペースで長く働ける仕組み」と結論づけた。出産、育休、再学習、介護などを経ても、復活できる。そして、自分で働き方を選べる、という仕組みである。
「100人いれば100通りの働き方」をサイボウズは掲げており、キーワードは
「自立」と「多様性」だ。
自立とは1人で生きていける力ということではなく、いろんな人やコミュニティなどに支えられている状態であり、自分で決める、ということ。多様性はそれをお互いに認め合うということだ。
11:00出勤の人材に対し、9:00出勤している人材が「あいつ遅い」という価値観では成り立たない。時間、進めるペース、働き方などを認め合う文化が欠かせない。
同社は「社員の一生を保証することは残念ながらできない」「会社の事業形態もいつ変わるかわからない」という前提のもと、以下の姿勢を表明している。
・独立や他社にいっても使えるスキルを身につけてほしい
・多様な価値観とスキルが会社にあふれる状態にしたい
・副業でスキルを磨いたり収入補完するのも歓迎
・学ぶための時間や環境は会社が補助
そのうえで、自立した社員を育てるためには制度だけではだめで、
「制度」 「ツール」 「風土」
の3点セットで進めるべきだという。
同社はまさに不都合を補うツールをサービス提供している。時間と場所を自由化するウルトラワークを進める。全国どこにいてもクラウドがあれば伝票もかけるし会議参加や商談もできる。
誰の面倒を見ても6年まで復帰できる制度も特徴的だ。
育児休暇、介護休暇、育自分休暇(35歳未満は離職後、6年以内なら戻れる)があるので復帰率100%。育休中でも情報共有ができる。
青野社長は子どもができて価値観を変えたそう。1年間16:00帰り、接待なし、決裁も16:00までというスタイルを実行した。リーダーが言い続け、率先して実践することが大事だという。
社員を型にはめず意欲を引き出す仕組みも工夫している。
思いついたらやる社風にするということで、社員同士が手をあげたことに会社が半額の支援をする。誕生日会、部内イベントなども全額でなく半額は自腹にさせるところで個人側もコスト意識がはたらき、逆に会社側もコスト減になっているという。
ただ手をあげたことの活動は社内ブログで情報共有するルール。社内部活動も発足が多く、ジェルネイル部、スイーツ部など多様。最初に立ち上がった任天堂DS部は賛否両論あったが、Googleゲーム部とマリオカート対決することを2ページ特集取材され、結果的に大きな宣伝効果にもなった。
ある意味、若い発想や自主性をどう引き出すには広い度量がいると語る。
その分、黙ってやらないこと、隠し事をしないことにはこだわっており、ルール違反は評価が大きく下がる。人事制度は与えられるものではなく、「質問責任と説明責任」をしっかり守るなかで社員が意見・提案し、上が意思決定していくことが重要だ。
優秀な人材が欲しい、と多くの経営者はいうが、日本は圧倒的に優秀で働き方が合わない人より、普通のスキルで働き方が合う人材を優先しているという。同社がママインターンを実施した際、TOEICが満点なのにスーパーでレジ打ちをしている女性の応募があった。優秀だけど働き方が合わないので活用しないのは勿体ない。
ただ、もちろん甘いだけではなくしっかり評価もする。
役職は役割ととらえ手当はない。マネージャーは偉いわけではなく、得意な人材がやる。
だから流動性が保て斬新な人事もできる。
40代で給与が下がる人材もいる分、副業もOKにしているのだ。よい具合に社内の競争社会も保たれている。
考え方のベースは、休眠スキルと細切れ時間の有効活用によって、労働力の増加と高度な産業を生み出すということ。多くの人材が体力や時間面で制約を抱えていくことになると「障害」というものの定義自体する必要がないと考えている。
自社で個々人のもつスキルと強みをどう生かすか。野水氏は、
必ずあるそれぞれの能力をいかにうまく取り込めるかで会社の成長も決まる。
地域の中小企業として続いての事例は、
3年ほど働き方改革に取り組んで成果を出した水産業の(株)ヤマウチ。
「自立型就業改革で実現した南三陸の会社の『残業ゼロ、指示ゼロ』経営」
ヤマウチは昭和24年鮮魚店として創業し、焼き魚パックを1日1万パック通販含めて提供する50人程度の企業だ。
震災後に人口が4,000人減っており、求人も1-2人ポツポツ応募があって来た人を拒めるほどの数は来ない。
選べないにしても、人材は社会に貢献したい気持ちがある。どうにかしてその能力を生かせないかと模索した。
以前はトップダウン構造で部下は言われたことをやるだけ。
自ら意思決定できる自立環境をつくるため、ITツールを活用して可視化し、誰が何の仕事をしてるのかわかるようにした。
データを探す手間を削減してすぐ顧客に対応できるようにしたほか、質問への対応マニュアル化で悩む時間を減少させ新人でも高い返答レベルで対応できるようにした。以前は毎回上司に確認をいれていた販売価格や損益分岐点の計算もツール化し、SNSで上司が返信するだけで値付けを社員がそれぞれできるようにした。
これらの取り組みで大幅に時間短縮=残業ゼロ
情報の蓄積による意思決定=指示ゼロ
を実現。出張先の上司に電話がくることもなくなった。
社員同士が企画などを積極的に考えるようになり、「オフィスも週1くらいしか行っていないし自分は副業のカメラマンの仕事で今は忙しい」(専務取締役 山内恭輔氏)
田舎でもクリエイティブな仕事、という風土づくりは難易度が高いなか今も試行錯誤中だという。
ただ考える文化ができ、削減経費を福利厚生に回すことができた。水産業では難しいとされる完全週休二日制と裁量労働制も導入。
少し勇気をもらえる事例だ。小規模だから、田舎だから、とあきらめず、
できることを模索してみてはいかがだろうか。
2017年9月4日
取材: ウーマンエンパワー賛同企業 事務局(株)ママハピ 谷平
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